衛士と灯台

 見渡す限りの平原だった。丘の上の灯台からは、緑にそよぐ領地内が一望できた。元より、箱庭の領地と称される通り、この土地は狭い。大人の脚であれば半日程度で一周出来てしまう。物見台を兼ねた高所へ、一頭の白馬が近づいてくる。最初は緑の海を掻き分ける白い点に過ぎなかったそれが恐るべき勢いで近づいてくるのを見て、衛士はヘルメットの下で目を丸めた。みるみる灯台の入口へ近づいてくると、そこからはもう身を乗り出しても来訪者の動向は確認できない。しかし、あれほど急いでいるとなると――衛士はこの展望台と繋がる唯一の出入り口でもある螺旋階段を振り返った。きっとあまり愉快ではない報せなのだろう。

「衛士殿。やはりこちらにおられましたか」

 ばんと勢いよく開いた鉄扉より、黒髪の騎士がマントを翻してやってくる。息一つ乱さぬ涼し気な面立ちにあって、その青い瞳がゆらめく青い焔のように輝いていた。用向きを聞く。返答は予想通りだった。東より侵略者あり、と。至急、衛士たる自分は本来の仕事、領主の館の警護へ戻るよう命じられた。灯台から館までは通常のルートを使えば数十分かかる。それは隠し通路を使わなければの話だ。玩具箱をひっくり返し、絵本の中の世界を再現したかのような箱庭には、子供が喜びそうな仕掛けがごまんとある。幼い子は迷路とか、秘密の通路とかが大好きと相場は決まっているのだ。

 了承の意を伝えてから駆け出すと、黒衣の騎士は灯台の窓から身を躍らせた。なるほど、確かに階段を使うよりそっちの方が早い。俺が階段をようやく降り始めた頃、軍馬のいななきが遠ざかっていくのが聞こえた。誰も重力の速度には勝てやしない。今頃、他の駒達にも召集が掛かっている事だろう、自分も急がなければ。やがて階段を下り切った所に見えた、旧式のエレベーターの鎧戸をがらがらと開けて乗り込んだ。――ここは箱庭の領地。もう十数年も目覚めぬ少女領主が治める、小さな小さな御伽の世界。