怪人と作家の遭遇 壱

 幼い頃から本を読むのが好きだった。だから自然と作家を志したが、おれはこの歳になるまで知らなかった。人間、必ずしも好きな事を仕事にできる訳ではないんだと。

 会社員として勤める傍ら、睡眠や自由時間を削って原稿用紙の余白をせっせと埋める日々。恋愛結婚した妻とは別居中。彼女曰く、あなたの生活に、わたしは居ない方がいいのだわと。その心は、ちょっとは頭冷やしなさいこの馬鹿旦那、であろうか。

 休日は書店と図書館を梯子する。トートバッグがずしりと重くなるほど欲張って、入手した書籍を持ってアパートへ帰って来た所。

 幼い頃から本の世界に憧れていた。だから自然と作家を夢見たが、おれはこの歳になるまで知らなかった。世の中にはまだ、魔法や神秘といったものが活きているのだという事を。珈琲を淹れる、散らかったリビングの机に本を重ねる。中には題名のない単行本が一冊。一番上に重ねたそれを手に取った――そこから、得体の知れない人間が転がり出てくるまで、あと、数秒。