怪人と作家の遭遇 弐

 詳細な説明は省くが、題名のない本から不審人物が現れた。

 真っ赤な装丁、文字の類が一切ない単行本をぱらりと捲ると、ごろりと文字通り成人男性――と思しき人間が転がり出てきたのだ。反射的に放り投げた本と共に、居間の床に横たわる黒い人影。犬のように唸りながら、頭と腰を片手ずつで押さえ顔を上げる。

 目が合う事はない。頭には黒のヘルメットを被っている。赤いバイザー越しに素顔は判然としない。ライダースーツについた埃を払いながら、ぬうと立ち上がった。

「……こんばんは?」

 喋った。日本語だ。何かの小説で、バケモノは喋らないのがセオリーだと読んだ覚えがある。意思疎通が図れる怪物なぞ三流であるのだと。それならこのヘルメットオバケは三流じゃないか。乾いた笑いを一頻りあげるおれを、奴は首を傾げて見つめているようだった。こちらの頭の出来を心配しているらしい様子がおかしくてまた笑う。この場合、狂っているのはこいつか。それともおれなのだろうか?