怪人と作家の遭遇 惨

 委細は省くが、目の前に突如として現れた不審人物と床の上で正座をし向き合っている。

 背筋を正している姿は中々堂に入っており、何かしらの武術を嗜んでいるのだろうかと想像が膨らむ。体のラインに沿う黒衣は露出こそ皆無だが、無駄のないしなやかな筋肉を目立たせていた。

 何から問うべきだろうか。気難しく黙り込んだまま、その怪人が現れた本を横目に確かめる。半端に開かれたページを下に、べしゃりと床に放置された姿がいかにも哀れだ。本は丁重に扱わなければならないのに。

 ぼんやりと現実逃避を始める頭の片隅で、辛うじて仕事を果たした聴覚が、ぐうと鳴る異音を伝える。今度はなんだ。慌てて正面に視座を戻すと、ヘルメットの怪人が照れ臭そうに腹部へ手をやっている。腹が空いているらしい。日本語を喋るし、空腹だしと恐怖ばかりが減じていく。やれやれと肩を竦めたおれの腹の虫も一際大きく鳴った。足だって痺れて来た。――そこはかとなく漂う、なし崩し的一時休戦の気配を察知する。