鋏屋の見解

「よう、旅の執事さん。今日もお散歩か?」

 鋏屋は刃を研いでいた手を止めて、通りの向こう側をぼんやり歩いていた燕尾服を呼び止める。古物屋の店先に置かれた瓶を眺めていた青年の翡翠色をした瞳が向くと、手を振る鋏屋へ応じて道を渡り始めた。ここ数日続いていた雨もあがって今日は快晴、人の出も多く絶好の商売日和だ。

 買い物客だけでなく、配達の自転車やら急ぎ足のお使い小僧などが行きかう中を一度も引っ掛からずやってきた執事の青年は、鋏屋の隣へしゃがむとその手元をじいっと見つめ始めた。お得意の床屋の鋏なんだと説明すると、相槌の代わりに嬉しそうな笑顔が返ってくる。まるで彼がこの散髪鋏の持ち主みたいだ。

 大事にされている物を見ると嬉しくなるのだという。そう伝えられた時に過ぎった眼差しに、鋏屋は考えを改めた。それは道具の持ち主としての矜持ではなく、使われる側、道具の気持ちを物語っているように見えたからだ。