鋏屋の願望

 幼い頃、母がとっておきの指輪を見せてくれた。石座に真っ赤なルビーが輝く価値物で、黄味の強い金色の柔らかな色が印象的だった。がっちりと宝石を掴む爪をしげしげと眺めながら、子供時代の鋏屋は考えたものである。――石だけならもっと綺麗なのに。金属もそりゃ綺麗だけど、別々に見ていた方が美しく感じるなあ。これをつくった人は、どうして透明な石と不透明な金属を一緒にしようと思ったのだろう?

 解せなくて、大人になってからいくつか、安い指輪を買っては金具をこじ開けてばらした事がある。一度ならず、二度、三度も。外す時は躍起になる癖に、いざ透明な宝石がころりと金属の戒めから解かれると、どうも思っていたような感動がなかった。指輪の石は単体で愛でるに小さすぎるし、扱いに困る。ひしゃげた指輪の金属は言うに及ばず、まったく魅力的ではない。

 そう、だから多分、指輪は指輪のままでよかった。違うものが一緒に在る状態こそが良いのだ。

 すっかり馴染みとなった旅の執事から、一本のナイフを預かっていた。研ぎは本職ではないのだが、少し無理を言って、どうか自分に研がせて欲しいとその刃物を借りてきたのだ。しかし、どうしたのか。あの執事が持っていた際には、もっと煌めいて美しく見えたのに。無言で流水にくぐらせながら砥石をあてていると、突然得心がいって、鋏屋は微笑んだ。――ああ、そうか。指輪と同じだ。ばらばらにしたらいけないんだ。そうとなれば今度は、あの執事さんにナイフを握って貰って、それを自分が研ごう。細くて白い指が指輪の爪のように白銀の冴えた刃物を掴まえる、その手首を引き寄せて、自分が刃を磨くのだ。素晴らしい一瞬を想って男の瞳は至福に和む。問題があるとすれば、この独善的な企てを、いかにしてかの執事に伝えるかどうかだが。