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夢と浪漫の話し/無邪気な坊ちゃんと執事

 問一。次の文章を読んで問題に答えなさい。

 

「なあ、執事。執事は魔法が使えるのか?」

 日課の勉強をして過ごす昼下がり、歴史書に掲げられた偉人の肖像画に落書きをするのにも飽きたので、背後に居る執事へ問いかける。

 分厚い書物を掌に広げて文字の羅列を追っていた相手は、小脇へ抱えていたノートにペンを走らせた。

『嗜む程度ですが』

「僕もたしなんでみたいから教えてくれ。すごく強いロボットとかよびだして、宇宙の平和を守るのだ」

『坊ちゃまは先日ご覧になったアニメーションの影響を多分にお受けのようです』

「僕が早々にたちあがらないと宇宙がえらいことになるぞ。ゾルゾル星人どもの侵攻はまったなしだからな」

『あの、カタツムリを巨大化させて、人の手足をはやしたような宇宙人ですか』

「おぞましいだろう! あんなものがこの星へやってきたら!」

『仰る通りです。坊ちゃまが搭乗されるロボットには、塩ミサイルや塩爆弾を装備させなくてはいけません』

 この執事、異様に物分かりがいいというか話が早い。勉学の進み具合や理解の程度を調べるテストでも、遺憾なく落書きの才能を発揮した僕の答案用紙へ花丸を添えるくらいだ。それはあくまで悪戯書きの評価で、試験そのものの点数や評価には一切加味されていなかったところもこいつらしい。遊び心は理解するが、基本的に容赦がないのだ。

 

「この間、うちにごあいさつに来ていた、わんちゃんみたいな執事がいただろう」

『はい』

「えらい元気で、えらい賑やか系の、言動が支離滅裂なトラブルメーカー臭ぷんぷんのおにいちゃんだったけどな」

『ええ』

「そのおにいちゃんが言っていたのだ。お前は魔法が使えるって」

『なるほど』

「ただの魔法使いじゃなくて、魔法少女の修行もしてたとか」

『   』

 何かを書こうとした執事の手が止まった。絶句。常に当意即妙を信条とするこいつらしからぬ空白が挟まった。窓の外では呑気に小鳥が囀っている。僕はとっくに勉強へ飽きていて、執事は都合が良い事にそれを注意するどころではない。

『坊ちゃま』

「うん」

『その犬のような執事さんは嘘は言っていないのですがね』

「うん」

『私はもう、魔法少女は卒業しておりまして』

「卒業とかあるのか」

『師匠からは免許皆伝の腕前を保証頂きました。卒業試験は、消滅しても比較的支障がなさそうな星を、この地上から狙撃して破壊するというものでしたが』

「物騒だな、魔法少女」

『師匠と約束をしたのでございます。滅多な事がなければ間違ってもその力を使うんじゃないぞと』

「ゾルゾル星人の侵略は滅多なことだと思うから、遠慮なく魔法少女になって僕のロボットを出す方法を教えてくれ」

『しかし坊ちゃま。坊ちゃまが魔法でロボットを出されたら、ロボットのパイロットではなく、坊ちゃまも第三の魔法少女に』

「む。それはもはやジャンルが違うな」

『ここは、ゾルゾル星人がやって来る前に坊ちゃまがお勉強を究めて、ご自分でロボットを自作されるのが最もそれらしいと思います。王道だと思います』

「上手く勉強の方向へ誘導したな、お前」

『恐れ入ります』

 

 そういう事なら仕方ない。今後、この執事の気が変わった時にねだれるよう今回の所は大人しく引き下がっておこう。

 万年筆を握り直すと、足をぶらぶらさせながら大人用の机に広げた書物に目を落とす。頬杖をついて、暫く文章を読んでから。

 

「ときに、執事」

『はい』

「詩作の勉強って、ロボットづくりに関係ある?」

『  あります』

「不自然な間がはさまったぞ」

『ロボットも操縦できて、近代の自由詩にも造詣が深いともなれば、坊ちゃまは社交界で大層おモテになられると存じます』

「僕というキャラクターの方向性が迷子なんだが」

『詩人風文系パイロットという新たな可能性の開拓をですね』

「そんな序盤か中盤で味方を庇って爆散しそうな儚げなキャラ付けはいやだぞ」

『坊ちゃま。インテリキャラが噛ませ犬フラグを立てる時代は終わりました。若干のギャグ属性さえ味方につければ、あらゆる爆発四散の危機からでもなんとなく生き残れるという』

「なんだそれ。具体例を示したうえで詳しく説明しろ。図説しろ、解説しろ。なんならそこの黒板を使ってもいいぞ」

 

 そうしてまんまとロボットアニメーションとスペースオペラにまつわる話で散々盛り上がったところで、様子を窺いにきたお父様の呆気に取られた顔。

 それを見た僕達が取ったどうしようもない行動を、十文字以上、五十文字以下で答えなさい。

 尚、執事は辛うじて首にならなかった事とする。