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ロボットと赤い花

 世界、憂鬱、加速は止まない。希望は消費されている、絶望は蓄積されている。人は正確さを求めるあまり機械になっていく。機械は人の居なくなった穴を埋めようとして人になっていくのだ。

 そのロボットが枯れかけた花を手にして歌いだしたって、何の不思議もなかった。

 悲しさを慰める術を知らないまま心だけを背負わされて、消えゆく命のために何ができるのかも分からないまま慈しみだけが溢れてくる。だから、ロボットは歌う事しかできなかった。

 軋むネジが旋律を起こし、踏みしめる足が拍を取って、開閉する口が言葉を呟いて。鉄色の塊は願って歌う。今にも爆発しそうな感情の逃がす先を探していた。

 祈る彼の手の中で、萎れ項垂れるだけの真っ赤な花。どうしたら良いのかなんて誰も知らない、教えてくれる者さえ居ない。こんな、こんな瓦礫だらけの大地では。灰色の空を泳ぐ銀翼の鳥は戦う事しか知らないし、人は争うだけの機械になってしまった。

 命を捧げ持つアームの先に、何かが触れる。白く軟い指先が、零れ落ちようとする呼吸を掬うように添えられた。真っ向から向き合った金髪の勇者は、恐らく、否きっと。

 泣いていた。

 足元には剣。投げ出された剣。ようやく誰かを救えそうだと、そういった意味の嗚咽をその人は漏らす。ロボットは、首を傾げていた。

 知らなかったのだ。どれほどの有機物と無機物が意味を失って、ただのモノになってしまったのか。薙ぎ倒された緑の腐臭や、舞い上がる塵埃や。

 生まれた疑問は解決しないまま、手を引かれる。気づけば歌う事すら忘れて、彼は踏みとどまっていた。此処に残って花を想いやる以上に意味のある行為など、あるようには思えなかったからである。

 そんな彼に、勇者は微笑みかけた。堪えるようなそれだった。

「貴方は生きている、その花と同じように命がある。ならば、生き延びなければならない。全ての命ある者は、生きるために存在するのだから」

 生き延びなければならない。それが疑問への答えのようだった。ロボットは考える。

 生きなければいけない意味は依然として分からなかったけれど。もし自分が居なくなったら誰も、この花のために歌わないかもしれない。それならワタシが歌い続けなくては――そう想った。あるはずのない心の回路へ電気が通る。走る足は軽やかに、再びリズムを取り始めた。未来へ、未来に向かって。