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やるせない会議室

 紛糾する場に一つ息をついて、座の主たるバアドは音を立ててカップをソーサーに戻した。その澄んだ音に、席についていた面々は各々の主張をぴたりとやめる。

 諸君――と厳かな悪魔王の声が呼びかけた。

「自らの利害を念頭に置いた言動の数々、もとい互いに足を引っ張り合う罵倒は如何にも名のある悪魔らしいが、それだけでは話が前に進まないだろ。とりあえず、ほら。さっき人類撲滅とか言った、お前。そういう面倒な事を滅多に言うんじゃない。地獄が人間で溢れかえる一大イベントなんて、終末まで取っておけばいいだろう。搾取する獲物がゼロになったら、こちとら何の得にもなりゃしない」

「人間の味方をなさるのですか、王。そら、今のを聞いただろうお前ら。そんな裏切り者は即追放だ。そして我が新たな王に」

 声高な指摘を遮って、バアドが指を鳴らす音が響く。同時に、がぶがぶとガトーショコラにかぶりついていたその悪魔の頭が、そのまま風船よろしく弾け飛んだ。ばしゃり。咀嚼していたケーキもろともにぶちまけられた諸々がテーブルのクロスを汚したが、誰も何も言わなかった。

「さて――諸君。悪魔が集会するに相応しいオブジェが飾られた所で、話を元に戻そう。紅茶のお代わりが要る者は? 遠慮なく申し出てくれたまえ」

 水を打ったように静まる一座。艶然と微笑むバアドの呼びかけに手を挙げる者は、誰も居なかった。