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うわさの門柱

「お前さん、この先の森に行くつもりかね」

「ああ、そうだが。爺さん、それがどうかしたのか」

「見ず知らずのわしが差し出がましいのは承知の上だが、悪い事は言わない。やめておきなさい。あの森には黒い鳥の悪魔が、血のように赤い眼をした悪魔が住んでいる」

「へえ、悪魔」

「そうだ。人の罪を暴き立てて、悪魔の天秤で罰を量る。それで、罪人を喰らうのだ。悪魔どもの基準に則れば、潔白な人間だって罪人にされかねん。だから、やめておきなされ。今ならまだ間に合う、この道を引き返すんだ」

「けど、人間ってのは生まれた時からもう罪を背負ってる。それが原罪だ。そうだろ?」

「そう、罪は償わなければならん。償い終わる前に裁かれ、喰われてしまったら元も子もない」

「あんたは随分、殊勝な考えのようだな。世の中には、罪人たる自覚のない罪人も居るだろうに」

「それは――なら、尚更に償いが必要じゃないか。償いのためには猶予が、時間が要る。だが、悪魔はその慈悲を与えちゃくれん」

「さあ、どうだろうな。ところで、爺さん。その悪魔ってのは」

 頭から被った外套を脱ぎ捨てて、バアドは紅い瞳を歪ませて笑う。

「こんな眼をしてるんだったか?」

 老人は。

 わき目も振らずに、逃げ出した。