· 

カスタードソフト

 光が射さないように造られたんじゃなくて、まるでそこは光自身が進んで避けるような醜悪な部屋だった。どんな明かりでさえ照らすのを拒む醜さ。だって白々と明らんだら全部見えてしまうでしょ? 此処でかつてどんな事が行われて、これから何がなされるのかが。

 壁を背にしてずるずると座り込む男はもう、こっちがわかる言葉でほとんど喋ってくれない。爪先、指先から徐々にアイスクリームとなっていく感覚ってどんなものなんだろうね。痛みは無いけど、床に張り付く感触や、もうそれが元の正しい形に戻らないっていう絶望だけは明確にあるんだと思う。

 まあ専ら僕は人をお菓子に変える立場だから、される方の気分なんて知ったこっちゃないんだけど。

「あのさあ、そろそろ膝とか肘の辺りまで溶けちゃってるけど。喋る気になった? たった十文字程度のパスワードじゃない。言ってくれないと、また君を此処に放置して外で暇を潰さなきゃいけなくなるんだよねえ。最悪、首の辺りまで溶けちゃっても唇さえ動けばどうって事ないから、長期戦なら付き合ってあげるけどさあ。常温で溶けるアイスの気分、これ以上は味わいたくないでしょう?」

 何より、そうやってどろどろになっていく体なんて、僕だったらあんまり見たくないからさ。此処で秘密をバラしてもこの人は味方にやられちゃうだろうし、かと言って喋らなくてもアイスに成り果てて蟻の餌になる。いい加減気づきなよ、僕らに捕まった時点でもう、まともに生き残れる道なんてないってこと。

 がちがちと歯を震わす彼の口を割らすにはまだ、ほんのちょっぴり刺激が足りないらしい。ホルスターから無造作に拳銃を取り出すと、おもむろに銃身を相手の足に近づける。まるで明滅する電球みたいに目を白黒させるその目の前で、ずぶり。氷菓と化した彼の肌に黒い凶器を沈めた。そのままスプーンでそうするみたいに、目の前でたっぷりとカスタードのアイスを掬って見せる。愕然と開いた顎の中で、驚くほど弱弱しい悲鳴が揺れていた。

「ねえ――君は溶けかけのアイスに銃を撃った事がある? 僕はあるよ。本物のお菓子に向かって。するとね、発砲の風圧と衝撃でまるで風船が割れるみたいに散り散りになるの。周りに甘い匂いが漂って、凄く愉快なんだ。今こうしているのはアイスといっても君の足である訳なんだけど、どう? あんまり退屈だから久しぶりに、試してみたくなってきてるんだ」

 誰かを喜ばすのには苦労するけど、こんな風に追い詰めるのは十八番だ。自分が今まで山程やられて嫌だった事、仕返すだけでいいんだもの。簡単だよねえ。

 なんにも感じないよ。君だって同じように、いやひょっとしたらもっと惨たらしい方法で誰かの秘密を暴いてきたんでしょう? だから何にも痛まない。怪物は報いを受けるんだよ。それは何時か僕だって。

「さあ、お喋りの時間だ。可愛そうな雪だるまさん」

 僕らの御伽噺に、ハッピーエンドなんてないんだ。