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ハロウィンケーキ

 木々の合間から覗く空が真っ赤に染まっている。

 見慣れた血溜まりみたいだ。きっと空が血を流しているんだ。

 首をめぐらすと、関節が音を立てて軋む。視界の端で何かが動いた。迷わず銃口を向けた。間髪入れずに撃った。それはドクス大将の顔をしていた。

「マヨア、お前はよくやってくれた」

 眉間を撃ちぬかれて倒れた人形が、今際の時に迫真の演技を披露する。どくどくと溢れる血はどす黒く、それなのに白い肌は淡く桜色にさえ染まっていた。めくれ上がった額の皮膚が、貫通した銃弾の摩擦に焼かれている。硝煙に混じって立ちのぼった異臭は恐らくそれだろう。人形は喋り続ける。

「だが忠実な飼い犬が何時手を噛むとも分からない。特にお前のような狂人は。急所を覆う鎧が、生身を隠す盾が牙をむいたらと考えるだけでおぞましい。それは剣が手を滑ったり、銃が暴発するより気味の悪い話だろ?」

 仰向けになっている人形の傍に寄って、頭を掴んだ。掌からじわじわと張り付いてくる感触。それは生き物だったものが牛乳の脂と砂糖に塗れていく感覚である。徐々に生クリームで塗り固められたワンホールのケーキと化していく頭部を、力任せに握りつぶした。顎から下はまだ人の形のままだったから、半端に空いたうろの中に、つぶれたスポンジとクリームが飛び散る。むき出しになった舌の上にも滴り落ちた甘味、その味わいを知覚する脳を探して真っ赤な舌が二度痙攣をした。

 なんて不愉快で、なんて楽しい一時。普段だったら絶対に、ドクス大将を殺めるなんてできない。しようとも思わない。

 だけど、今は。

「……ああ、ドクス大将。こんな姿になって」

 もはや原型を留めていないニセモノに。

「それでも、貴方は美しいのですね」

 背筋を駆け上がる快感に腰が砕けて、傍らにへたり込む。堪えきれぬ至福が突き上げてきて、笑みを隠し切れない。地面についた手で体を支えたまま、一風変わった盛り付けをされたドクス大将のケーキに唇を寄せて、食らう。

 この背徳感、この征服感。やっぱり僕も、林檎を食べた女の子孫なのだ。

 空が泣いている。聞き飽きた子供の声で。それは昔々、僕が幼かった頃の。