· 

おろかな中庭

 自らが陥った絶体絶命の窮地を、悪魔は笑っていた。遂におかしくなっちまったのか、と徒党の一部が声を上げる。罵倒でもなんでも良かった。ただ、このまま沈黙を守っていたのでは、此方まで気がふれてしまいそうだったのである。優位に立っているのは、彼らにも関わらず。

 黒衣の鳥は、着衣の羽を揺らして愉しげに周囲をねめつけた。何処を見ても、凶器を手にした男が詰め掛けていて、退路はない。だというのに、この余裕はなんだ。立ち込める不安を紛らわすように、スタンガンの火花が一度だけ散る。虚勢の姿勢を崩したら気づいてしまう、気づいてしまうのだ。

 その紅い瞳が、生贄を値踏みする悪鬼の色をしている事に。

「ああ、可笑しくてたまらない。隠してた訳じゃないが、白状しよう。実はちょうど、粛清ごっこでもしたい気分だったんだ。おれが執行者役で、お前らは反逆者役。決まりだな」

 顔を出した満月が紅い。

 それが、網膜にかぶった同胞の血糊であるのに気づいた。判断に要した時間は数秒。しかし、悪魔には刹那さえあれば十分な時間だったのだ。

 真っ赤な月が、嗤っている。