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コットンキャンディ

 混じりあうはずのない血が溶け合う異常。満月を恋う激情と、深夜に患う沈着と。

 狼男が吸血鬼になる。そんなB級映画よろしくの発想を現実のものにするため、一体どれだけのものが犠牲になっただろう。

 目覚めた時、俺は過去の記憶を大半失っていた。

 それは、覚醒する直前に起こした惨劇も例外ではない。あくまで人伝に聞いた話だが、この吸血鬼兼狼男は、麻酔が満足に抜け切らない内にゆらりと起き上がるやいなや、経過を観察に来たお菓子の家の魔女を3人惨殺したという。肉が切れる音のこだまが部屋に染み付くかと思うほど、緩慢にして執拗なスプラッターショーであったというのは、さすがに誇張しすぎかと思うのだが。

 内側から染み出して、体内の隅々を巡っていくこの狂気。出所は何処だ? 俺は何を畏れ、何を憎んでいる?

「……全てだ」

 無差別に。

 きっと全て憎んでいる。神様から見放されるのを恐れた人々の、弁明めいた保身。触れたものを壊す事しかできない自分。全て。なんて下らない。

 

 首輪を付けられる前は酷かった。

 自分に近づく奴らは何も考えちゃいないんだろうと考えていたものだから、こっちも無感情に誰構わずバラバラにしていた。

 満たされる場所なんて何処もなかったくせに。

 力任せに屈服させようとする憲兵も、安っぽい同情で懐柔させようとする魔女も。とりあえず人間なら何でも、首を取っておけば大人しくなる。簡単で分かりやすい、実に結構じゃないか。

 

 変化は緩やかに。だからこそ、何処からそうなったのか今ではどうやっても思い出せない。肌を濡らす雨の存在に気づくともう、雨雲がすっかり立ち込めている時のように。

「初めまして、シアン軍曹」

 部屋に訪れた一筋の清流。

 音も無く雨が降るその日、俺はその人に出会った。