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うるわしき客間

 影がたゆたう。確信を持って腰を下ろした悪魔の動作に合わせて、足元の暗がりが黒い椅子を作りだした。

 見えざる手が影を操り、掬い上げては削りだして一つ一つを組み上げて行く。魔術師は目を細めて、その様を見守った。灰色の双眸に宿るのは好奇でも狼狽でもない。仕掛けがある事を承知の上で奇術を楽しむ行儀のいい観客のように、腕を組んだまま佇んでいる。

 灯された蝋燭の照らし出す陰影だけが、辛うじて物体の輪郭を描き出していた。二人をすっぽり取り込んで出来上がったのは一つの黒い館である。その主たる悪魔は肘掛に体を預け、招いた客人を眺めた。さて、と幼い容貌に好奇を浮かべて主は笑む。

「紅茶にするか、それとも珈琲にするか。お前はどっちがいい」

「どちらでも結構よ」

 真黒の貴賓室でソファを探し当てて、ひらりと身を躍らせて席についた。真横に何時の間にかぬらりと控える無貌の執事を見上げ、溜息をつく。

「――貴方の影で出来たものでないのならね」