天使の休息

 同じポットから同じ紅茶を分け合い、同じ席でひと時を共にする。さして可笑しな点など無いはずのこの状況に対しブランシュは何度、何故と自問した事だろう。対面に座すセラフは目を細めて穏やかな午後を吟味していた。

 木々が生い茂り、草花が風と戯れる。その小さな箱庭は正しく、天上に相応しい楽園だった。飛ぶ小鳥の気配がする、走る小さな獣の気配がする。ただ、そこには同族の気配は無い。両手に持ったカップをそっと吹きながら、ブランシュは遂に静寂を破る。どうしてですか、と。鈴の鳴るような声で問いかけた。

「どうしてあなたは、悪魔であるノワールと私が友達だと知ってて……それでも、何も言わないんですか?」

 揺らぐ白い湯気の向こう。彼らは気づいているだろうか。その澄んだ瞳に宿る光が、良く似た愛しさで揺れている事に。

「大切なのは、“私達”が天使で、“彼ら”が悪魔であるという事じゃないからさ」

 私達は大事なひとが居て、幸せだね。

 聡い少女はその一言で、その表情で、言外の意味を悟った。ゆっくりと目を閉じて、頷く。失ったもの、奪われるものの数を数えても果てがない。けれど、今確かに手元へ残っている頼もしさは、どんな脅威にも勝るものと信じた。

「私もノワールと出会えて、幸せ――です」

 ひとりではない、ということ。