案内屋の欠落

 今まで生きてきて初めて心から好きになった人へ想いを告げた。誰に対しても分け隔てなく、真摯に向き合ってくれる所が好きだった。この人と一緒なら絶対に道を間違えない、正しい未来へ連れて行ってくれると信じられる。返答は受諾か拒絶か。おめでたい私はたったの二択しか考えて居なかった。

 実際に返ってきたのは、困惑。凛とした表情を気づかわし気に曇らせて彼は言った。どうして自分なのだろうと。

 親しみはわかる。憐れみはわかる。敵意や殺意なら尚更よくわかる。けれど、恋愛感情だけは解せない。思慕とは自分と同じ相手に抱くものではないのかと。なにをいっているのかいみがわからなかった。――きっと君は疲れているんだな、とその人は言った。伸ばされた手がいつものように優しく頭を撫でて離れるけれど、その触れ方はもう昨日までのそれとは決定的に違っていた。

 後に聞いた噂によると。彼は生まれつき、他人の姿がバケモノに見えるらしいのだという。かわいい赤ちゃんはピンク色の臓器が剥き出しの肉塊に、妙齢の女性は粘性の蔦が巻き付いた肉塊に、右を見ても左を見ても肉塊、肉塊、肉塊。だから。彼はいつだって確かめるように尋ねて来た。「あれは可愛いか?」とか「あれは美しいものだろうか?」とか。今にして思えば彼は心配だったのだ。たった一人、蠕動する肉塊に囲まれながら、他とは違う自分は上手くコミュニケーションが取れているのかどうかが。私の恋は、彼が産まれた瞬間から、既に実らない事が決まっていた。