鋏屋の恋敵

 鋏屋は執事の事を好いているんだな。落ち着いた声が背後から飛んでくると、砥石に当てていた刃の向きを誤って、鋼と石が歪に擦れる音がした。結局自分の不手際な訳だが、店へやって来て開口一番がそれかと、思わず店の戸口へ立つ案内屋を睨んでしまった。

 そういえばこいつは執事さんの事を同志と呼んで、何かと後をついて回っているのだ。もしやお前も。そう問いかけると、身の丈ほどもある旗を携えた男は至極あっさり、是と頷いた。

「慕わしい人間は幸せになって欲しい。しかし、それが自分の手で叶えられなくても構わない。それだけの話だ」

 嘘偽りの無い潔白の瞳がそう告げた時、俺は反射的に感情のまま言葉を吐いた。俺はそれじゃ厭だ、好きな相手を自分の手で幸せにしたいと思ってしまう。それを受けて、案内屋は穏やかに笑った。――そう考える君だから、きっと想い人を幸せにできるのだろうと。