古物屋と面倒事

 生憎の雨天だった。朝方は清々しい晴天だったのが、昼過ぎから太陽は急に機嫌を損ねたらしい。取り巻きの雨雲に後を任せて、地上は宵暮れに似た闇が落ちる。案内屋は傘を畳んで、古物屋の軒先に入った。戸を叩くと間髪入れずに不機嫌そうな店主が顔を出す。金色の目を胡散臭そうに細める仕草さえ無ければ、爽やかな好青年に見えるものを。上客の前ならいざ知らず、彼が商店街連中に愛想を振りまく事など十年に一度あるか無いかの沙汰であるから仕方が無い。

 半歩下がって案内屋を不承不承招き入れると、小脇に抱えていたタオルを案内屋へ放り投げる。店の奥にある客間へ通される道中に愚痴めいたぼやきが延々と続いた。今日は金にならない客が多い、お前で三人目だと。――相当鋏屋の気が立っているらしい。普段彼は周囲に当たり散らす性質では無いのだが、今日に限っては違うようだ。これも十年に一度あるか無いかの珍事である。

「最初に執事が来て、次に弟の櫛屋が来た。最後はお前だ、デカブツ。鋏屋の坊主を宥めすかす策が尽きたのか。面倒なら殴って大人しくさせちまえば良いだろう。……暴力は良くない? あっさり人を殺しちまえそうな図体でよく言うもんだぜ。誰かが言って聞かせなきゃならねえんだよ。駄々こねたって変えられないものの方が、世の中には多いんだって事をさ」

 それは時間が解決する類の問題だな。案内屋は静かにそれだけを返し、受け取ったタオルで濡れた服の裾を拭き始めた。先導する古物屋の不機嫌ぶりは、勢いよく吐き出された煙草の煙が物語っている。この商店街の誰もが手の付けられない問題で、かつ時間が解決してくれるのを悠長に待てない件には、自分が出張らねばならないのを古物屋本人がよく分かっていたのである。