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鋏屋の弱味

  • 増殖するひよこ

「本業へ集中できないのは、最終的に鋏屋が何でも引き受けてしまうのが原因だと思う。面倒見がいいのはお前の美徳だが、譲れないものがあるのなら断る勇気も必要だ」

 呈された苦言は至極尤もであるが。とは言ってもねえ。鋏屋は足元を駆け回る無数のひよこ達を踏まないよう慎重に腰を屈めながら、この百を超えて尚増え続ける雛の中からたった一羽、右目だけが緑色の変異体をみつけるべく目を凝らした。なにもこんな難事の最中に説教をくれなくても良いのではなかろうか、というのが正直な所だった。

 身の丈ほどもある旗を肩に休ませ、手頃な木の根元に居場所をみつけた案内屋は、やはり今回も鋏屋を手伝うでもなく、現場への案内だけが自分の仕事と心得ている様子で微動だにしない。ふわふわとしたひよこ達はなぜか鋏屋には興味を持たず、この白装束のガイドマンの方にばかり向かうので、やり辛いと言ったら無い。とりあえず、中でも特に目立って必死に逃げているものはどれかと狙いを探す。こうしている間にもシャボン玉が弾けるような音と共に、緑豊かな森の一角でひよこは増え続けている。

 特殊なひよこと普通のひよこを誤って混ぜこぜに販売してしまった鳥屋の失態を、なぜ特に顔見知りでもない鋏屋が火消ししているのかについては、確かにお人好しで片づけてしまえば説明がつく。商店街の連中はどうも、古物屋に話を通し、執事が言伝を鋏屋に持って行けば受けてくれると学習してしまったようだ。改めねばなるまい。――という決意は既に五度目を数えている気がするが、鋏屋は幸いにもあまり細かい事を気にする性格ではない。もし彼が人情を重んじない人間であったなら、この物語は始まりさえしていなかっただろう。

 

  • 久々の本業

「それと、鋏屋くんはたいていの厄介事をなんとかできてしまうからねえ。だから、たよられてしまうのじゃないかな」

 糸切狭を誂えにきた鏡屋を相手に、鋏屋は腕を組んで明後日の方向を向く。最近、大抵の商店街連中は会うとお説教をしてくるのである。それも貧乏くじを引きがちな彼を思っての良心であるので、なんとも聞き流しづらい。まだ着物の袖に黄色い羽毛がついているのをみつけて、指先で摘まむとぽいとそれを店の隅に弾く。

 しかし悪い事ばかりではない。黄色い羽で思い出すのは、例の執事の柔っこい金髪である。今度執事さんとお茶をするのだ、これは少しでも親しくなる絶好の機会なのだ。得意げに語る若い店主の方を向いて、鏡屋は実に緩やかな動作で首を横に傾けた。

 もしや、それってまた無茶な頼み事をされるパターンじゃないかい、鋏屋くん?