カガミの憂鬱

 ヘルメットを外す。鏡を覗き込む。カガミが鏡を見るなんて傑作だ。三日前に観直した映画のヒロインが、鏡越しにこちらを見返している。俺の中の理想ともいえる女性像。溜息をついて鏡を伏せた。

 この顔を見た奴は例外なく、その相手にとってもっとも理想的な姿を俺に投影してしまう。男女の別はない。こんな風に、俺から見たらプラチナブロンドの美女にもなってしまう。

 仕方がない、望まれて作られたのだ。この方がたくさん有利な場面を作り出せる。誰も自分の理想を攻撃できない。俺もたぶん、こんな女性が出てきたら殴れない。自分だとわかっていても。

「……生き辛いなあ」

 ずっとヘルメットを被っているのも息苦しいし。そもそも、俺には自分の顔がないという事だ。

「……普通に生きられるように、作られてないもんな」

 口に出してみると存外に傷つく結論だった。立ち上がり、身支度を整える。飲めない酒を飲むために。