形なきもの

 形なきものの話をしよう。

 それは天に、空に、地に。楽園に、冥府に、現世にいる。

 しかしどこにもいない。

 なにせ形がないのだから。

 其は運命そのもの。其は無知なる全知。何もしないまま、何もかもを知っている。

 けして我々の祈りを聞き入れぬ。けして我々を見放さぬ。

 ゆえに恐怖しながら敬え。軽んじながらも怯えよ。

 其は運命そのもの。夢はいつか終わる事を、生ける者はいつか死ぬ事を。そして、終わりから始まりを語るもの。

 

 教会には何もない。象徴、聖句、奇跡の残り香のどれも見当たらない。白い壁へ向かい当たり前のように祈るシサイを見上げて、傍らの少年は恐る恐る問いかけた。

「神父さまは、なににお祈りしているの?」

「形なきものに」

 それがあんまり幸福そうだったから。

 少年もまた、そっと心臓へ手を当てて、目を閉じた。