ユスラの救済

1.

 一週間前、私の兄は魔獣討伐の任務で戦死し、焼かれて骨になった。

 その兄が生前の姿のままでバーのカウンターに座っている。

「ただいま、ユスラ」

 笑って手を振る彼に、唇を噛んで呪詛を吐いた。酷い冗談だと。

「ずっと自分の生まれを呪っていた人が、この上なく厭っている方法で振る舞うなんて。……貴方は貴方自身の尊厳を貶めている。他人に慈悲を与えられるのは、己を犠牲にしない余裕がある人だけよ」

 腰かけていた相手は立ち上がると両手を広げた。

「でもさ。もし大切な友人が、店を閉めたきりろくに食事もせず、誰とも話さないまま衰弱していたら――お前も、同じ事をするんじゃないかな」

 見開いた両目から、涙が零れる。

 そうか。つまり私は自己犠牲もやむなしと思わせてしまうほど、追いつめられていたという事なのだ。

 

2.

 そんな私を見て彼は屈託なく笑った。

「……さて、ユスラ。喧嘩別れしたままの兄貴に、なにか言いたい事があるんだろ?」

 気づけば思い切り息を吸って、子供のように泣き出している。そのまま、まろびながら広げられた腕の中に飛び込んだ。

「ごめんなさい……! 兄さん、ごめんなさい。家を飛び出したあの日から、どうしてもそれが言いたかった……言いたかったのに……!」

 喪ってから、こんなにも思いが募るなんて考えなかった。だから昔日の折、私はなにより身勝手だった。いや、今この瞬間でさえ。

 肩に回される手を感じる。むりやり嗚咽を噛み殺した。だって、どうしてもこれだけは言わなきゃいけない。

「……ありがとう、カガミくん」