職権濫用特権

1.

「いやあ。今日も平和そのものですね、兄様。不法侵入を試みる輩もいない、強行突破を画策する不届き者もいない。実に退屈で平和な昼下がりじゃあないですか」

「……面倒事が起きないのが一番だろう。それとも兄殿は大捕り物という面倒事を望んでいるのか?」

「いやいやいや。それはないですよ。自分だって面倒臭いのと、汗臭いのは嫌いであります。……おや。とかなんとか言っていたら、前方からヘルメットを被った厄介事がきましたよ。見事なランニングスタイルですねえ。腕の振り方、脚の出し方も申し分ない。あれは100メートル走を10秒切るかもしれません」

「――おい、こら聞こえてんだよこのロクデナシ双子!」

 

2.

「わあ、カガミ様。そんなこわーいお顔なさってどうしたんです? まあ顔なんて見えないんですけどね。あはは」

「ブン殴るぞ」

「それはやめて頂きたいですねえ。怪力の貴方様に本気で殴られたら、頭がぽーんって取れちゃいますから」

「……いっそ一度取れて新しい脳味噌の入ったものを付け替えた方がいいだろうな。この愚兄は」

「わあ。兄様ったら酷い。自分の頭はさて置き、そんな血相変えてどうしたんです? ここは曲がりなりにも静謐な美術館の門前ですよ。もう少しばかり声を落として頂けると有難いんですが」

「お前ら。……アカリをこん中に連れ込んだだろ」

「ええ、連れ込んだなんて人聞きの悪い。アカリの姐御さんが図画工作の宿題で悩んでたから、じゃあ参考になるかもって通しただけじゃあないですか」

 

3.

「――まあ、カガミ様に事情を話してお小遣いを貰ってから出直すって健気に言うもんだから、いやいや、そんなまどろっこしい、どうぞ今すぐここを通ってください、タダで良いですって無理やり押し込んだんですけどね」

「やっぱり連れ込んでるじゃねェかクソが!」

「だって仕事終わりにすぐ缶蹴りして遊びたいんですもん。近くに居て欲しいんですもん。ねえ、兄様もなにか言ってやってくださいよ。モンペですよ、モンスターなペアレントの襲来です。早々に立ち退き願いましょう。このままだと姐御さんとの缶蹴りタイムに暗雲が立ち込めちゃいますから」

「おおーい、トラメさんよ。このペラペラ口の回るタカメとは違って、アンタならちょっとは話し分かるかもって期待してるんだけど……」

「……そうだな。缶蹴りができないかもしれないのか。……それは頂けないな」

「ああ! 揃いも揃ってロクデナシなんだからこいつらは!」