更新記録 · 2019/11/16
■ヒトコト頂いておりました 11月13日に『また来るね』を一言頂いておりました。御礼が遅くなりましたが、ヒトコトを送って頂いた方はどうも有難うございます(*'▽')...
更新記録 · 2019/11/13
■巣鳥館暫定新ページにつきまして 本日より試験的に、メインコンテンツを別サイトへ移行、今後は新しいページでの公開をメインに更新予定です。 こちらのJIMDOのサイトは当面このまま、適宜手を入れつつ残しますので、相互リンクしてくださっている方はリンクの張替え作業は見送って頂いて構いません。...
更新記録 · 2019/11/11
■日常怪異公開 『今日も、商店街は平和です。』 四行沙汰をOTHERへ暫定的に移動しました。
 鋏屋は目を擦った。電柱には貼り紙がしてある。個人手製のちらしと思われる、迷子のお知らせだった。  犬や猫のものはよく見かけるが。そこに掲載してある写真には、一匹の真っ赤な金魚が映っている。...
更新記録 · 2019/11/10
■ヒトコト頂いておりました こちらでの御礼が遅くなり、失礼致しました。11月8日の14:24に『拍手ぱちぱち』を頂戴しておりました。どうも有難うございます(*´ω`)...
 橋のたもとにある桜が見える場所を陣取り、古物屋は五本目の煙草に火をつけた。けだるく塀に寄りかかり、晴天の青を見上げる。...
 それぞれ得た情報を報告するため、宴会にも使われる大広間へ一同が会したのは、とっぷりと夜が更けてからだった。主に酒屋が戻ってこなかったのが集合の遅れた理由である。とっくに雁首を揃えた仲間を見回して赤鬼は、あれえ、と素っ頓狂な声をあげた。てっきり自分が一番乗りだと思ったのにと言わんばかりである。古物屋が与えた腕時計はとっくにどこかで壊してしまったのだろう。そして当人の体内時計は稀に見る大雑把さでてんであてにならぬ。上等な酒が手に入ってご機嫌な鬼は既にどこかでひっかけてきた後らしい。愛しい赤子を抱くように未開封の一升瓶を携え、鋏屋の対座へどっかり腰を下ろした。 「よう、お揃いのようだな。いやいや、ちょっとばかし遅くなっちまって悪かったよ。え? そんな顔で睨むなってェ、古物屋よ。ちゃーんと人外連中の様子は見てきたから。店持ってる奴らは、いつ人間が喧嘩吹っ掛けてくるかわからんから、出入りする客を限定したり、店自体を閉めちまってる奴らが大半だった。この土地の人外をまとめ上げてる親玉は大蛇と妖狐らしいが、どっちも見かけなかったねえ。川底と山奥に引っ込んじまってるらしいや。ただ、道歩いてて俺自身、因縁つけられる事はなかったし、目立つ場所で騒ぎがあったりもなかった。開店してる店が少ないから、歓楽街の割に静かだって思うくらいよ。あ、心配しなくても酒売ってる店は何軒かあったからさ、調達には困らなさそうだぜ。え、それは別に聞いてないって?」  では人間側の動きはどうだったのか。化け猫が促すように鋏屋を見遣ると、和装の青年は浅く頷いて腕を組んだ。「俺と執事さんも、あちこち出歩いてみたけど、目立った騒動はなかった。絡まれるような事はなかったし、遠巻きに見られてる感覚があったくらいかな。置屋の人と話ができたらよかったんだけど、なんだか忙しそうで、後日改めて約束を取りつけてからにしてくれって言われちゃったんだよ。だから日を変えてもう一度行ってみようと思う。うん、あと、そうだな。これは俺の思い過ごしだと思うんだけど。彼ら、どうも執事さんを気にしてる様子だった」執事を。眉を上げて古物屋が復唱すると、鋏屋は肩を竦めた。「相手には執事さんの素性は明かさないで話をしてたんだけどね。ほら、この人は、長年使われた刃物が人の形を得た変わった生い立ちだろう? ここに住んでる人達がどんな風に受け取るかわからなかったから」この人と示された当の使用人は、微笑みの内に沈黙を守っている。喋る番ではない役者のように行儀よく。  座の纏め役である黒猫もまた、簡潔に宿屋の女将、天狗童子との会談内容を語った。途中で三度、居眠りをした酒屋に茶托を投げた他はつつがなく済む。花街の関係者から聞かされる界隈の事情は物騒極まりないが、ただ歩いてみても棒には当たらない。明かす話の種が尽きたのを頃合いに、大広間を襖で四つに仕切ってそれぞれがようやく自分だけの夜を取り戻す。古物屋は窓を開けた。宿屋の一階、中庭へ向いて開いた空間へ身を乗り出す。聞こえてくるのは風の音ばかり。静かすぎる歓楽街の狸寝入りである。
「で。これが持参した菓子折りであると」くりりと黄金色のどんぐり眼が、机上へ出された菓子の箱を凝視している。銀色の直毛をおかっぱに切りそろえた天狗童子は、一見してただの子供のようだった。古き良き平安の時代、貴族の小間使いに雇われていた子供のような装束に袖を通し、見た目も仕草もまるっきり幼い童である。...
「まあ、ちょっと見ぬ間に随分と婆さんになっちまったもんだな」宿屋の最上階、最奥の間へ通された古物屋の第一声である。他の道連れは中庭で持て成されていた。古物屋を呼び寄せた女主人と一対一である。こざっぱりとした老女は畳にきりりと正座をしたまま悪態をついた。「それを言ったら、あんたなんていつまで経っても青臭い若造のまんまじゃないか。悪趣味だねえ」「そう言うなよ。齢食ってもお前は美人だ」「世辞を言うならあたしの目を見て言いな」挨拶代わりの応酬が済むと、見計らったように湯呑み茶碗を持った仮面の男が入ってきた。能面である。無駄のない動作で二つの煎茶を置いてから、一言も発さず大人しくさがっていく。「あれは」化け猫は襖が閉まると、座布団の上で足を崩しながら茶碗を取った。「ここで働いている奴らは全員、顔を隠してるのか」ふん、と溜息とも取れる息が返ってくる。 「うちには元々、人間人外その間、関係なく色んな従業員がいたからね。お客もそうだよ。あたしは寄り集まった連中の誰の味方になるつもりもない。喧嘩するなら一人でやればいいんだ、半端に仲間作るからややこしくなんのさ。だからこのお宿で働いてる間は全員中立でいられるよう、素性を隠させた。もめ事を起こしたら当事者の両方とも追い出すだけだからね」「だが、あんた一人だけじゃ頑張れなくなった。だから俺を呼んだんだろう?」この老舗宿屋を切り盛りする女将の発言力は大きい。花街にはそれぞれ多大な影響力を持つ有力者が幾人かおり、彼女はその一角である。極端なまでに個人の自由がまかり通るこの土地では、群れはせずとも、特定の権力者へ憧れて支持する者は一定数存在した。「今じゃ中立張ってるのはあたしくらいなもんだよ。川の大蛇、山の妖狐は早々に結託して人間排斥を掲げて徒党を組んだ。芸者を囲ってる置屋連中は例の旦那の仇討だって息巻いて話になりゃしない。それに他の宿屋や茶屋、賭場連中も乗っかってねえ。見てらんないよ、情けない。まるで餓鬼の喧嘩さ」  猫舌に配慮してか、古物屋の分のお茶は人肌まで冷めていた。一息に飲むと座敷から立つ。「古物屋。どこから手をつけるかはあんたに任せるけど、やる事は山ほどあるよ。建設的な話を聞きたいなら、中間の者達を訪ねな。あと霊山の天狗童子にも話を通しておいた。力を貸してくれるってさ」「へえ? 真っ先に山奥へ引っ込んでいそうな気紛れ天狗が、またどういう風の吹き回しだ」  ふう。女将の吐いた吐息に、茶碗から立ち上る湯気が紫煙のように揺れた。「気に入りの和菓子屋がこの騒ぎで暫く閉店するってんで、危機感を覚えてるんだと。菓子に目がないだろ、あの天狗様は。あんたも話聞く時は、菓子折りのひとつでも持って行くんだね」
 外界と一線を引く歓楽街は、王族や政府の介入を一切拒み、独自の発展を遂げてきた。身内の問題は身内で解決する。自分の身は自分で守る。個々人が独立し、自らの面倒をそれぞれで見れば、何の問題もなかろうという原則だ。ゆえに、例えば老衰や急病によりこれまでの生活が営めなくなった場合、その住人を救済する制度は無い。精々、勤め先があればその主人や同僚がそれなりの面倒を見てやるか、家族があったならできる範囲で看護をする程度である。血が繋がっていたとしても共同体の認識は限りなく薄く、個人がたまたま寄り集まってできたに過ぎない花街では、自分で自分の面倒を見られなくなった時が寿命なのだ。例えどんな関係であろうと傷病者の面倒を見なかったからといって誰も責めない。無論、当人もそういうものだと納得しているので、援助が無かったとしても文句は言わぬ。そうして倒れた者も、自らの生活を最優先するという不文律にそって生きてきたのだから、自分の時だけ泣き言を述べるのは筋違いなのである。  独立、あるいは孤立しているともいえる個人が住まう街は、流れ者にも寛容だ。外界でどんな罪を犯していようが、橋を渡ってここへやって来た時点で一度だけ全てちゃらになる。花街の規則さえ守ればどんな犯罪者とて大手を振って生きられるのだ。ただし一度でも、この街の自治権を揺るがすような行為が発覚したら、その時点で追い出される。善人、悪人お構いなしで容赦も無い。裁判や多数決は一切行わず、花街の掟に背いたと声を上げた者が、疑いのかけられた者を勝手に追放しようと実力行使に出る。場合によっては返り討ちに遭うが、大抵の場合、勝手な賛同者が祭り気分で一緒に襲い掛かるのでひとたまりもない。そして野次馬の日和見は軍配のあがる方を応援するので、旗色の悪い方が追い出される羽目になる。疑いをかけた方が逆に追放されるなんて事もあるが、それはそれで丸く収まってしまうのがこの街なのである。済んだのなら誰も気にも留めぬ、思い出しもしない。  それで上手くいっていたのだ。 「さっき言った半端者いうんは、人間と人外の間にいる人らやね。半分妖怪の血が流れている人間。半分機械に改造された人間。あとは、人の形をもった物とかね。ここにはほんまに仰山いろんなもんが棲みついとるさかいに。人間も居れば人外も居って、その中間も居るんや。今まで種族にわかれ、結託していがみあうなんて無かったんよ。そんなん花街の決め事とちゃうやんか」しかしある日。川に二つの死体が流れた。ひとつは花街でも有数の老舗置屋を束ねる人間の男。もうひとつは霊山の奥深くに住まう雪女。「こう言ったら何やけど、この街で殺しなんてそう珍しくないんよ。川からホトケさんが上がるんも、まあ、ねえ。最初は、へえ、そうなんかて聞き流しとったくらいで」しかし、あがった屍の身元が知れると、街中に動揺が走った。霊山には人間が立ち入れぬ境があり、常しえの吹雪に閉ざされた異郷を隠し持っている。雪女はそこに住まう神聖な存在だった。人界へ死した体が流れたというだけでも、山に住む神霊や街中で商いをしている妖達は相当な衝撃を受けた。一方の置屋の主人は、根っからの善良な人柄で知られる好人物である。他人に興味を持たぬのが当たり前の花街にあって、名前を出せば誰もが「ああ、あの気の良いご主人か」と口元を綻ばせてしまうくらいの人徳である。人望厚く、懐へ入れた人間のためなら草履をすり減らして奔走する、人情の男でもあった。  さて、人間、人外、どちらが先に言っただろう。我々が大事に隠しておいた雪女の死体が恥ずべき形で露わとなったのは、ひいては境の禁を破って何者かが聖域へ立ち入ったがゆえである。人界の水へみせしめの如く流したのは、すなわち人間の仕業に違いない。他方。この街の人間、人外と問わず情け深く面倒を見てくれた置屋のご主人が、惨たらしくも水死体となったのはなぜだ。誰の恨みを買うはずもない、立派な御仁であったのに。これは、人ならざる者どもが姦計を巡らせたとしか思えない。重罪人さえ改心させるほどの高徳は、やはり人間にしかわからぬこと。妖どもが妬んだのではあるまいか。「街は今、すっかり人間と人外とで二つに割れてしもた。それで割を食ったんは中間の人らよ。どっちつかずっちゅうんは正しくこれやもん。うちら、元々上手な群れ方なんか知らんし、そういうんが下手くそやから、この花街に来たっちゅうんに。いっぺん均衡が崩れるともう駄目なんよ。ぜんぶ無茶苦茶や。そいで、つまはじきにされた間の人らが、両方から敵視されて」遂には、追い遣られ、酷い場合には殺される。古物屋は相変わらず眉を顰めており、鋏屋はすっかり蒼褪めていた。酒屋のいびきは止んでいる。すうと開かれた赤鬼の双眸は、花街の奥に鎮座する、迷宮の如く巨大な宿屋を見定めていた。そこが一行の目的地だった。

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