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四行小説/群青劇 · 2019/07/31
◆古物屋主従の漫才...
四行小説/群青劇 · 2019/07/12
荘厳に  血のような夕暮れだ、と執事は思った。雑居ビルの屋上に柵は無い。コンクリートの縁に腰かけて子供のように足をぶらつかせている。陽に透かした自分の掌も同じ色に浸った。少女にも似た無邪気さで唇へ弧を浮かべながら、切望の表情は破滅的な願望に取りつかれた悲劇の男にも似ている。だが執事はそのどちらでもなかった。...
眠り姫  天蓋からさがる布が安寧を守る広々とした寝台に、護衛屋の少女が横たわっている。穏やかな寝息、安らかな顔。傍へ歩み寄った案内屋はその静寂を尊ぶように眺めている。硝子の棺に収まった白雪姫を見守るように。...
百と九十三の幽霊  これまでの人生で食べてきたパンの数を正確に記憶している、と断言する人間とは付き合わない方が無難だ。大抵の場合はほらを吹いているだけだし、万一にも本当に覚えていたとしたら、やはりそんな抜け目の無さ過ぎる人と縁を繋ぐのは恐ろしい。...
おはよう、執事さん  記憶は、失われたりしない。単に情報が引き出せなくなるだけだ。器官としての老朽化か、それとも疾病などによる損傷か。だから、跡形もなく消滅する訳ではない。この世に消えて無くなるものはない。質量は一定だ。...
さようならの重み...
 通りの向こうを眠たそうな黒猫が歩いていく。  菓子屋の店先から焼き立てのクッキーの匂いが漂ってきた。  鋏屋の店先からは刃物を研ぐ音が聞こえて、案内屋の窓口が静かに開く。...
 怒られるのを病的に恐れる子供だったんだ。菓子屋は焼き上がったジンジャーマンのビスケットを並べながら歌っている。白い大皿にひとりずつ整列していく人型のお菓子。ふっふっふ、夢見がちなパティシエはご機嫌だった。...
 ありふれた悪夢の中で目覚めた。そこはよくある廃墟で、曇った窓硝子の向こう側に止まぬ雨が叩きつけている。執事は体を起こし、寝転がっていたベッドから立ち上がった。足元を鼠が忙しなく駆けて行ったのがはっきり見える。光源はどこだ。光へ吸い寄せられた視線は、ベッドサイドに燭台をみつけた。真っ赤な蝋燭が一本だけ立てられた小さな灯りを手に取ると、それを翳して出入り口である扉を探す。  小さなゲストルームに相応しい瀟洒な扉は半分ほど開いていた。その向こうから啜り泣く女性の声が漏れ聞こえてくる。段々と近くなる。反射的に身を屈めてサイドテーブルへ身を潜めた。頼りない炎に手を翳し、息を殺す。やがて戸の隙間から室内に伸びてきた女性の影には、頭が無かった。  ――まだ嗚咽は聞こえてくるが、すり足の気配と共にそれは遠ざかって行った。限界まで早まりつつあった鼓動を宥めるように、火を守っていた手で胸を押さえる。改めて姿勢を正し、部屋を出ようと歩き出した所で、また別の足音が聞こえてきた。咄嗟に身構えたが、床を踏む規律正しい靴音には聞き覚えがある。迷わずこの部屋に入ってきたのは、纏う白い制服も眩しい案内屋だった。  そういえばどこへでも案内するのが彼の信条だったか。落ち着き払った青い瞳がこちらを捉えると、生真面目に問いかけてくる。道がわからないなら先導するが、助けは必要だろうかと。執事は少々大袈裟なリアクションで指を組み合わせると、偶然おりてきた蜘蛛の糸に縋る思いで助力を頼んだ。すると案内屋は珍しく小さな忍び笑いを漏らし頷いてくれた。それを耳に入れてようやく気づく。笑い声と泣き声は似ている――だからさっきの女性は泣いていたのではなくて、あれは多分、笑い声だったのだなと。

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